大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和44年(う)203号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕所論は、原判決には審判の請求を受けた事件について判決をさせず、また審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるというのである。

そこで、、所論にかんがみ、記録を調査するに、原判決が、昭和四三年一〇月七日付起訴状記載の刑法第二二二条の脅迫及び暴力行為等処罰に関する法律一条違反の所為と、昭和四四年四月二八日付起訴状記載の同法律一条の三違反の所為とを、包括して同法律一条の三、前段の常習犯の一罪と認定しながら、主文において後の起訴事実について公訴棄却の言渡をしなかつたことは所論のとおりである。なるほど、右のような二個の起訴に対し、原判決のようにこれを包括して常習犯の一罪と認定するには、後の起訴については刑訴法三三八条三号に則り公訴棄却の言渡をなし、前の起訴についてはその訴因を後の起訴事実を附加した前記法律一条の三の常習犯の訴因に変更させるのが理論的であるかもしれない。しかしながら、右二個の起訴について、原審は弁論を併合し、同一手続で審理をしており、検察官も原審第四回公判においてこれを常習一罪として処断されたいと述べていることが記録上明らかであつて、原審において前の起訴の訴因を後の起訴の前記法律一条の三の常習犯の訴因に附加して審理をしたうえ、これらを包括して後の起訴の常習犯の一罪と認定したものであり、そのことによつて被告人になんら不利益を与えないし、また二重判決の生ずる危険も全くないから、特に所論のように後の起訴事実について公訴棄却の言渡をする必要はなく、また前の起訴の訴因を必ず変更させなければ審判できないというわけでもない。従つて、原審が前記のように判決主文において後の起訴事実について公訴棄却の言渡をせず、また前の起訴について訴因の変更をさせないで審判したからといつて違法があるとはいえず、原判決には、所論のような審判の請求を受けた事件について判決をせず、あるいは審判の請求を受けない事件について判決をした違法は存しない。

論旨は理由がない。

論旨第二点について、

所論は、要するに、原審で検察官は被告人の原判示第一の犯行の常習性を立証趣旨とする証拠をなんら提出しなかつたから、原判決の挙示する証拠によつては右常習性を認定することができないのに、原判決が被告人の暴力常習者として右常習性を認定したのは理由不備の違法があるというのである。

なるほど、所論のように、原審で検察官が特に被告人の原判示第一の犯行の常習性を立証趣旨とする証拠の取調請求をしていないことは、原審第一回ないし第四回公判調書の記載に徴し、明らかである。しかし、もともと、証拠の証明力は当事者の主張する立証趣旨に拘束されるものではなく、裁判所は自由心証によつて立証趣旨以外の他の事実認定の証拠とすることもできるものというべく、原判決の挙示する関係証拠中には被告人の常習性を直接立証趣旨とする証拠はないけれども、右各証拠、特に検察事務官作成の前科調書によれば、被告人には原判決が累犯前科として摘示している恐喝、同未遂、脅迫、暴力行為等処罰に関する法律違反等の犯罪の前科の存することが認められるのであつて、この種犯罪の前科存在の事実に原判示第一の犯行の態様、回数等を総合すると、被告人に原判示第一の犯行の常習性のある事実は優にこれを肯認することができる。従つて原判決には所論のような理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。(高橋文恵 久安弘一 渡辺宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!